盛岡冷麺&つなぎ温泉の旅

★日程
3:19分熱海発 ムーンライトながら92号東京行き
4:47分東京着
東北新幹線はやて号で盛岡→(タクシー)つなぎ温泉
つなぎ温泉→(バス)盛岡駅
東北新幹線はやて号で盛岡駅→東京駅→東海道線普通列車で熱海着(19:19)


★念願の正月パス

フリーきっぷという名前のときから使ってみたかった正月パス。
元日一日限定で、JR東日本の営業区域新幹線含め乗り放題で
なおかつ座席指定もできるという「鉄道マニア」でなくても楽しい切符です。
途中から「普通車指定席用」(1万円)と「グリーン車指定席用」(1万3千円)と二つになりました。
毎年母と出かけたいねと話しながらも、正月は大抵風邪を引いていたり
仕事の疲れを実家でゆっくり癒したかったりとなかなか使う機会がなかった正月パス。
今年は仕事もしていないし、実家にいるのだから出かけるのには絶好の機会。
早速指定券を予約しようとネットで調べてみる。

調べた結果、これには色々と裏技があるらしく
狙っていた東北新幹線「はやて」はすでにグリーン車満席。
探し始めたのがもう発売間近だったしね…
ようやく押さえた大垣から東京まで毎日走っている深夜急行「ムーンライトながら」と
はやての普通車指定券。
これで元日の東北路は決定!

※このきっぷは全国どこの人でも使えますが、発券はJR東日本の営業区域内でしかできません。
 正月パスと同時に指定券を発券してもらわないとしっかり指定席の料金を取られてしまうので、
 結局のところJR東日本営業区域内でないと不便かも…


★大晦日の夜から、元旦の朝にかけて

紅白歌合戦が終わるともうまもなく出発の時間。
我が家は伊豆急線沿線なので、ながら号が停車する熱海までは車。
恒例のお正月バージョンらぢおほうるも作成していなかった私は
紅白が終わってから創り始めるという暴挙(計画性なし)。
ようやくそれが終わると、もう出発までは30分もない。
急いでシャワーを浴びて目を覚ますと、雪国仕様の身支度をして
そして温泉お風呂セット(笑)をバッグに突っ込みバタバタと出発。

国道は1台も車が走っておらず、こんなときは田舎でよかったね。
熱海市内に近づくにつれて車が増える。
いつも夜通ると怖い錦ヶ浦(自殺の名所)もこんなに車が通ってたら
幽霊も出ようがないでしょ。
思ったより早く熱海駅に着いてしまうが、コンビニのほかはどこも開いていない。
仕方なく車に戻り時間まで珈琲を飲みながら待機。


★夜行列車はご用心

年末年始はムーンライトながらが増発し、一日往復で4便となる。
それも実に紛らわしくて、通常のながらと臨時ながらは5分間隔なのだ。
気をつけていたもののまんまと引っかかって熱海駅から通常のながらに乗ってしまう。
通常のながらは熱海から先半分の車両が自由席、
臨時のながらは全区間全車指定席。
というわけで、座れないということはないはずなのに
指定された席に行ってみるとすでに人が爆睡している。
おかしい?と思ったときに車内で見知らぬおじさんに声を掛けられ
私たちが乗るのはこの列車ではなく5分後の列車だということを教えてもらう。
むむ、やっぱり夜行はベテランが多い…おじさん、ありがとう。
というより、5分間隔で走らせるJRが悪いと思うんだけど。
列車の名前も同じだし、非常にまぎらわしいのですよ。
せめて発車時刻か名前どちらかを変えて欲しい。

よく不動産屋が女性に言うのは「平均家賃が安い場所は治安が悪い」。
確かに港区白金台や大田区田園調布にに空き巣や強盗は住んでないよな(笑)
安いということは治安が低下するということだ、ということを何度も言われた。
これは電車にもそのまま当てはまると思う。
以前九州まで夜行で行ったときにはパートナーが男性だったこともあり
男性が通路側に座ってくれたりと危険な目に遭うことはなかったのだけれど、
新潟の友人宅を訪ねた後、帰りに東京まで夜行で来た時は一人でちょっと怖かった。
深夜の急行なのでわざわざ女性専用車両に乗ったのに、
当初私と子供連れの女性しか乗っていなかった車両に男性が乗ってきたのだ。
全席座席指定車両だったのにわざと乗ってきたのかなんなのか
車掌に2度急かされて、やっとぶつぶつ言いながら他の車両に移っていったが
かなり挙動不審で男性が去った後もしばらく眠れなかった。

そんな記憶があったので、以来一人で夜行は使っていなかった。
九州のときもあきらかに女性の私をじろじろ見ていく人はいたけれど
男性がいるといないとでは扱いが違う。
今回は母親と一緒ではあったものの、やはり不安でしばらく眠れず。
気づくとうとうとしていたが、間もなく新橋というあたりで起きてしまった。


★旅の始まり

終夜運転の都内はいつもと変わらない風景。
東京駅についたのは5時前、はやての発車までには1時間ある。
寒さをしのぐためにコンコース内をぶらつくと、ラーメン屋を発見したので
そんなに腹が減っているわけではないけれどなぜか吸い寄せられてしまう。
寒いときのラーメンってなぜか心惹かれるよね。
母親と二人で早い朝ご飯、思いっきり辛い坦々麺で体を温める。

ラーメン屋で体を温めてから東北新幹線の改札に行くと、すでに10メートルどころでない行列。
指定券を持って並ぶ人はいないだろうから、自由席狙いだろう。
帰省する人もあり、正月パスで指定券が押さえられずに自由席狙いの人もあり、
ぎりぎりで滑り込んで指定券を押さえられてよかった、と胸をなでおろす。
裏技を教えてくれた人たちは「全区間で自由席は座れないと思え」と言っていたが
まさかここまで凄いとは…やっぱ、乗り放題1万円って安いもんね。
私たちが乗る「はやて」は全席指定だけど、「のぞみ」みたいに立席特急券が出るし。

改札が開いても行列がはけるまで時間がかかり、乗り込むとすでに発車10分前を切っている。
デッキで立っている人も多い。話しに耳を傾けてみると、やはり正月パスが多そう。
でも…これ(はやて)って上野、大宮、仙台しか止まらないのよ?
私も東海道新幹線ではよくやるけど、新幹線で立ちっぱなしって辛くないのかな。
寝るには結構快適だけど、スピードが速いから危ないんだよ、ね。


★東北新幹線「はやて」にて

開業して日が浅いはやては乗り心地も上々。
座面も背もたれも両方リクライニングするから、体はとても楽。
昨年秋から新幹線づいていて、黒部ツアーでは上越新幹線と長野新幹線に乗り
今回は東北新幹線。
これで私は全部の新幹線に乗ったぞー。次は九州新幹線だ(笑)
初めてのはやて、一睡もしていない体は眠気を主張するが
心はわくわくして眠らせてくれない。まるで、子供のように。
なんてったって初日の出ははやてから見るのである。そして初めての東北路。
大宮までは慣れた風景が続くが、宇都宮以降は全く初めての風景。
通路の向こう側に座った夫婦が東北出身(かつ山好き)の方々のようで、
でかい声で見える山々(私が座った方角に山も初日の出も見えた)を
興奮していちいち解説していたおかげで(笑)
(この夫婦の話す声はあまりに大きく、結局ほとんど眠れなかったんだけれど)
しっかり筑波山も他の山々も目に焼きつきました。
古典で言う「筑波嶺の…」なんてのはアレなんだよね?

大宮過ぎてからは真っ暗な夜空から少しずつ夜が明けてきていて
英語では夜明けの空のことをDawnと言うんだけれど
日本語よりもこっちのほうが表現しやすいかな。
夜明けというともう朝焼けの印象が強いから。
Dawnというのは朝焼けまえの、漆黒→濃紺→紫→とたくさんの色をはらむ
日の出前の空を指す感じかな。
というわけでDawnの空を見て、筑波嶺を見て、やっと初日の出。

高速移動中に拝む初日の出ってなんだか不思議な感じ。
自分が太陽の衛星になったみたい。
いつもは太平洋から上る初日の出だから、山から上る初日の出って初めてかも。

仙台に着いたところで、雪がないのに気づく。
今年は暖冬で雪が少ないとは聞いていたけれど、まさか盛岡も…?
とは思ったが、それが当たるとは…
雪を見ることがない伊豆の人間は、雪に憧れる。
暖かくて冬のない、そして雪は5年10年に一度はらはらと降るくらいの伊豆は
たっぷり雪が積もって一面銀世界なんて土地を離れない限り死ぬまで見ることはない。
東京に住んでいたときは、そんな私を雪国出身の友人たちは笑ったものだった。


★つなぎ温泉にて

盛岡についてみると、確かに雪はない。
前夜に降った雪はほんの少しだけ積もり、道はアイスバーンだが(朝早いから)
タクシーに乗ってみるとこの雪も昼までには溶けてしまうという。
今年は50年に一度くらいの珍しい暖冬で、と運転手さん。
つなぎ温泉までは20分くらい。
愛想がよくて親切でちょっぴりおしゃべりな運転手さんはずっとしゃべりっぱなし。
でもその間につなぎ温泉で日帰り湯をさせてくれる宿を探してくれたり
盛岡の話をしてくれたり、つなぎ温泉の歴史を教えてくれたり
初めて東北路に降り立つ私たち親子をとても温かくもてなしてくれた。
ただ困ったのは…早口すぎて言っていることが半分くらいしかわからなかったこと。
黒部も最初に行ったときは全然タクシーの運転手さんと会話が成り立たず(笑)
ぼーっとしていると話に乗り遅れ、聞いていると他国語のように聞こえてくる。
けれど、人の温かさが伝わってくるんだよね。

つなぎ温泉ではさぜんというお宿で温泉に入りました。
何しろ朝早かったり元日だったりで私たちかなり無茶を言ったものですが
さぜんさんのオーナーはとても親切にしてくださいました。
日帰り入浴、500円タオル付き。
なんだかね、伊豆って結構傲慢な殿様商売なのかしら?
と思ってしまいましたよ。
物価が高いから単純比較しちゃいけないんだろうけどさ、
ここらで日帰り入浴って最低千円、タオル別料金だからね。
さぜんさんは古くからの湯治宿だったそうで、民宿くらいのこじんまりとした宿です。
たしかに近代的じゃないし、風呂も広くないし、露天風呂もないけれど
そんな表面的なことはどうでもよくなってしまう、とてもアットホームな雰囲気いっぱいの宿でした。
日帰り入浴だけ(しかも500円しか払ってないという引け目が…)で
バスの時間まで館内にいてもいいですか?とおずおずと聞くと
優しげなオーナーさんはちいさなロビーにあるソファーコーナーを勧め
ご自由にどうぞと書かれたポットの珈琲をごちそうになりました。
ペンションと民宿を足して2で割ったような、まるで我が家に戻ってきたような感じです。
私たちが伊豆から来たというと、かなりいいところからこんなはるか遠くて寒い
つなぎ温泉に来てくれてありがとう、と声をかけてくださいました。
私本人は寒いところの人と妙に気が合うようで、友人も寒冷地出身が多いのですが
口数は少ないけれど温かくて優しい雪国の気質が大好きなのです。

オーナーと少し話しているうちに、バスの時間になりバス停に行く。
伊豆は何しろ暖冬で、年の暮れだというのにまだ山は紅かったくらいなのに
ここはわずかでも歩道には雪。道は凍結してちょっぴりつるつるしている。
バスを待ちながら、御所湖というつなぎ温泉の目の前の人造湖を見たり
湖の向こうに見える岩手山と奥羽山脈を写真に撮ったりする。
立山連峰を背負う黒部市もそうなんだけど、山が迫ってきそうな感覚。
いや実家の近所には天城山もあるんだけど「連峰」とか「山脈」ではないので
あまり山が迫ってくるという印象はない。
天城を越えて見える富士山だって山ひとつだし…

タクシーでつなぎに向かっているとき、岩手山が標高(2千メートルクラス)の割に
かなり迫っている感じがしたり(実際近いのだそうです。)
雪国で真冬なのに山に比例して空がとても高く、「イーハトーブ」という言葉と
宮沢賢治を思い出しました。

賢治の作品の裏にあるあの不思議な世界は、ここだったんだ―
賢治の妹が言った「あめゆじゅとてちてけんじゃ」はあの雪なんだ。

あらためて私の知らなかった日本を、文学を生んだ土地の空気をここで吸って
なぜあのような作風と雰囲気が出来たのかがちょっぴりわかった気がしました。


★盛岡駅と冷麺

バスに30分ゆられ、盛岡駅に戻る。
温泉に浸かったあとのほかほかした体でバスに揺られると、眠気が…
イーハトーブだ賢治だと言っていたわりに、あっさり寝てしまう(笑)
盛岡駅の気温、天気予報では最高で3度。
実家のある伊豆半島とは10度以上の温度差。
都内で寒さに慣れていた私も、外に出るとやっぱり寒い。
温泉入浴後とあって心して厚着していた私と母親なのだけれど
周りを見渡すと私たちが伊豆で着ているような服装(=コートなし、セーター程度)の人ばかり。
暖冬だとは言え、3度だよ、3度。
それでもこちらの人にとっては暖かいんだろうな。
伊豆の自宅なんて日があるうちは暖房禁止で(笑)日中15度以上なので…

丁度お昼時に駅に着き、にわかに仕入れてきた冷麺マップを思い出しつつ
駅周辺を歩いてみる。
が、元旦はどこも開いてなかった…

仕方なく駅ビルに戻り、レストラン街のようなところで冷麺を食べる。
冷麺屋を装っているが予想通り焼肉屋である。
牛肉も冷麺も嫌いな母親は一人ビビンバを食べ、私はダイエットなんて忘れて
カルビ+冷麺+キムチ&ナムル+どんぶりご飯という盛岡満喫ランチをほおばる(食べ過ぎ。)
どこで食べたものよりもソウルで食べた本場の冷麺に一番近くて、実に美味しい。
後で調べると、元々在日韓国人の方がここに持ち込んだ文化らしい。
それなら本場に近いわけだわ。

食後駅ビルの休憩所に座ると、そこは木のベンチに電車の信号のレプリカ。
信号の下の矢印には「ジョヴァンニ」と「カンパネルラ」という表示。
やっぱり宮沢賢治なのである。


★計画はちゃんと練ろう。

指定を買っていた帰りの「はやて」まではまだ時間があった。
けれど観光スポットになっている旧市街地までは歩くには遠く、断念。
おまけに今日は元旦で観光施設は閉鎖、見る場所も無い。
こんなに上手くまるで「いい旅夢気分」のように計画すんなりが進むとは思わず
時間を取りすぎた…
来年からの課題は「計画を細かく練るべし」。
どうにもこうにも動きがとれず、タリーズコーヒーなんぞで暇つぶしをする羽目になりました。


★総論・往復1300キロの日帰り旅

普段から旅慣れていて長時間の移動も平気な私でしたが、さすがに距離を感じました。
時間に余裕があったせいか、自分ではゆったりのんびりせかされること無く湯に浸かり
名作を生んだ自然を垣間見るという「いいとこどり」の旅だったと思います。
自然が大好きで、最近気になる山も近くて温泉もいいお湯で文句無く
個人的にはもっと知りたい、もっと空気を感じたいという欲求を非常にかきたてられたので
小岩井、つなぎ、そして再び盛岡といつかまたリターンズを計画したい場所です。
宮沢賢治の世界は「雪国」なのにどうしてあんなに空が高くて
タテにスケールの大きい作品ばかりだったのだろう、と昔から不思議でしたが
今回の旅でその長年の謎が一つ解けただけでも実り多い時間だったと思いました。
食べ物も狂うほど好きで(笑)空気も馴染める土地というのは実を言うとあまり多くなく
旅好きの割に「土地見知り」の激しい私には温度は寒いけれど温かい場所だったように思えます。

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