邪宗門
高校時代によく通っていたティー・パフェの美味しい店、「邪宗門」。
(写真コーナー『旅行記』に内部写真があります)
そこの伝票の裏にはこの詩集の巻頭詩「邪宗門秘曲」が書かれていて、私はそれをきっかけに
北原白秋の浪漫的でかつ哀愁をおびた詩たちにのめりこみました。
この人は単語の使い方がじつにおかしくて、またそこが無国籍な感じをかもし出しているんだけど
うたたねを「魔睡」とか書かれちゃうとほんと言葉の魔術師だなー、と思うんだよね。
縦書きでないのが本当に残念だけど、「邪宗門秘曲」ごゆっくりお楽しみあれ。
旧字体で変換不可能な文字は、勝手に新字になおしました。(なおせないところは、かな表記)
邪宗門秘曲
われは思ふ、末世の邪宗、切支丹でうすの魔法。
黒船の加比丹を、紅毛の不可思議国を、
色赤きびいどろを、匂鋭きあんじやべいいる、
南蛮の桟留縞を、はた、阿刺吉、珍たの酒を。
目見青きドミニカびとは陀羅尼誦し夢にも語る、
禁制の宗門神を、あるはまた、血に染む聖磔、
芥子粒を林檎のごとく見すといふ欺罔の器、
波羅葦僧の空をも覗く伸び縮む奇なる眼鏡を。
屋はまた石もて造り、大理石の白き血潮は、
ぎやまんの壺に盛られて夜となれば火点るといふ。
かの美しき越歴機の夢は天鵝絨薫にまじり、
珍なる月の世界の鳥獣映像すと聞けり。
あるは聞く、化粧の料は毒草の花よりしぼり、
腐れたる石の油に画くてふ麻利耶の像よ、
はた、羅甸、波爾杜瓦爾らの横つづり青なる仮名は
美しき、さいへ悲しき歓楽の音にかも満つる。
いざさらばわれらに賜へ、幻惑の伴天連尊者、
百年を刹那に縮め、血の磔背にし死すとも
惜しからじ、願うは極秘、かの奇しき紅の夢、
善主麿、今日を祈に身も霊も薫りこがるる。